2009年8月。
台湾に行くことになった。
妻と、妻の母親と僕の3人の旅行だ。
僕はいつも、旅行は何も決めず何も調べずにいきなり訪れてしまう、
というのが大好きなのだが、今回は義理のお母さんも一緒だ。
さすがに何も調べないわけにはいくまい。
…と思っていたら、旅行の手配を妻が全部やってくれた。
ただ、妻が買ったガイドブックだけ、パラパラとめくってみた。
見慣れない地名が並んでいて、ちっとも頭に入ってこない。
すると、見慣れた文字があるではないか。
『千と千尋の神隠し』
いいじゃないいいじゃない。
旅先が映画に関係しているとテンションがあがってしまう。
こうして僕らは、台湾の桃園国際空港に到着。
ぴっかぴかなのだ。
とにかく、床がぴっかぴかなのだ。
その昔、大学生だった僕は、ヨーロッパに旅立つ際、台北でトランジットしている。
だから、空港内で数時間を過ごしたことがあるのだが…
やはりというか、まったく覚えていない。
今回はツアーの利用なので、いつものように空港で途方に暮れることもない。
待ちかまえていたガイドさんに連れられて、バスは進む。
台北の町並みが見えてくる。
ここまではまだ、外国にいる、というのをしっかり認識することはない。
景色もそれほど、日本と違わない。
そして、とりあえずホテルに荷物を降ろす。
ここは、ジェット・リーも泊まったことがあるようだ。
そして、旅が始まった。
家族3人の旅だ。
そう。
この旅が始まってから、僕は『千と千尋の神隠し』の主人公、
千尋になりきっている。
妻とその母は、行き先が分かっているようだ。
僕は車の後部座席で一人、ただ、ただ、連れられていく。
引っ越し先に向かう千尋のように。
やがて、車は市街地を抜けていく。
どこだ?
どこだ?
不思議の街はどこだ??
名前も読めなければ、
歴史も知らない建物がどんどん現れる。
これだ、この感覚。
これが、外国にいる感覚だ。
知らない街にいる感覚だ。
壁にかかれている文字も、読めない。
自分が今、どこにいるのかも分からない。
あ、これは単に方向音痴なだけですけどね。
誰も、知らない。
見慣れないデザインと、奇抜な色づかいが、
僕の気持ちをざわつかせる。
8月の台湾は、ひたいからどんどん汗を流させる。
ただ、湿度がそれほどでもないためか、不快感は東京より少ない。
宮崎駿は、台湾を訪れてから、『千と千尋~』の着想を得たのだろうか。
それとも、イメージする場所があって、それを探しにあちこち廻ったのだろうか。
そう。
身体が、だんだんと、この街になじんでいく。
暑さに、気候に、匂いに、同化していく。
古い。
日本なら、汚いとも言われかねない古さ。
歴史、がそこにある。
突然、雨が降ってくる。
どんどん激しくなっていく。
でも。
ここには、雨がとても似合う。
路地裏。
近代的なビルとビルの間に、こんな場所がそこここにある。
歴史と進歩と、そして忘れ去られた空間が同時に存在している。
これからいよいよ、
不思議の街に向かう。
九ふん(人べんに分)という街らしい。
漢字変換できないところも、不思議の街じゃないか。
不思議の街『九ふん』へ
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