車は、どんどん山道を登っていく。
いよいよなのだ。
いよいよ、不思議の街とご対面なのだ。
千尋と化している僕は、ここはしかし、わくわくではなく、
不安になるべきなのだ。
ただ、一瞬気付いてしまったのだが、
さっきから僕は千尋だ、千尋だ、と言っているが、
完全にオカマじゃねえかよ。
…というのは、まあ、不思議の街に免じて気にしないでいただきたい。
話の都合上のことなのだ。
台湾の山は、意外と高い。
ずいぶんと見晴らしのいいところまで登ってきた。
ふと、路地裏に入ってみると、まったく違う景色が広がっていたりする。
そうやって、僕は不思議の街で、迷子になりそうな感覚にとらわれる。
危ない、危ない。
家族の元に戻る。
道ばたに書かれている文字も、
どこか不思議の国だ。
おっと間違えた、不思議の街だ。
それじゃあ僕は、千尋じゃなくて、
アリスになってしまう。
不思議の街は、僕らをどこに向かわせるのか。
あらゆるものが僕を異空間に連れ込もうとしているようだ。
そして。
不思議だらけの街で、僕は突然、
見覚えのある建物に突き当たる。
湯婆婆の油屋のモデルになったという建物だ。
と、原稿を書きながらここでgoogleで検索してみる。
すると、油屋のモデルは特定のものではない、と書いてあるではないか!
渋温泉の金具屋、という記述もある。
あそこは僕も一度泊まったことがあるが、これまでの人生の中でベスト宿だ。
また行きたくなった。
よし、もしいつか行ったら、『千と千尋シリーズ第三弾』だな。
おっと、いけない。
意識が違うところに行くところだった!
不思議の街はいたずらが過ぎていけねえ!
カチ、とgoogleの画面を消す。
うん、想像してたよりちっちゃいけど、
それっぽいぞ。
この赤ちょうちんが、雰囲気を出してる。
はじめてなのに、
どこか懐かしい雰囲気。
これぞ、不思議の街!
不思議の街の油屋の屋上から見る景色は、
ハッと息をのむ程きれいでした。
昔この街が炭坑で栄えていた頃の、映画館だそうです。
さて、
『千と千尋~』で、不思議の街に家族と一緒に迷い込んだ千尋は、
この後どうなったでしょうか。
映画では、千尋を残し、父親と母親は食べ物の匂いにひかれ、
そして、食べまくって豚になってしまうのです。
台湾の千尋(僕のことです)は…
自分自身が食べまくるのです。
さあ、お腹空かして見ないで下さい。
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