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『ルビーとカンタン』


 ジュンコさんとメール交換をしていると、いろいろと教わることが多い。
愛情のあり方についても、わたしとは違う意見を持つジュンコさんの「追いかけ続けるタイプ」の愛情にはなかなか関心するところがある。  

 ジュンコさんは、毎回パリに旅行で来る度に、駐在勤務をしている日本人男性のS氏と会うのがお決まりだった。S氏が昼間空いている時には観光案内も含めてデート、夜には高級レストランでご馳走してもらい、最後には彼女の泊まっているホテルへ。そんなことを旅の間中繰り返し、彼はその短時間だけ、まるで本当の「彼氏」のような存在であった。彼女は彼に夢中であり、彼は彼女を冷静かつ丁寧に扱った。女の一人旅で普通ではできそうにないことを、彼女はたくさん経験したと言う。  

 ある日、「ルビーとカンタン」という映画を観た。ジャン・レノとジェラール・ドパルデューが主演の映画。ドパルデュー扮するカンタンは、純粋な友愛からジャン・レノ扮するルビーを執拗に追いかけ続ける。それはストーカーにも似ているが、実は愛情そのものであり、決して同性愛などではなく、いわば「落ち着き場所を求めて」の愛なのである。ラブシーン1つ出てこない映画で、男同士の「愛情」は、熱っぽく弾けながら語られていた。  
 映画の中に出てくるホテルがモンマルトルにあるあのホテルであることはすぐに気がついた。そして同時に、そのホテルについ先日パリを訪れていたジュンコさんが泊まっていたことを思い出した。ジャン・レノ扮するルビーは、移民の若い女性をホテルまで送り届け、お金を持たせてやる。「ここなら大丈夫だ」と言って。ジュンコさんも同じようにあのホテルの扉の中へと消えていったんだった。つい先日のことだ。  

 東京とパリとロンドンにあこがれる彼女、英語とフランス語を同時に勉強している彼女、昼間はOLをしている彼女、長いメールで世界情勢の話をする彼女、オランジーナが好きな彼女。そんなジュンコさんは「恋愛は、追いかけるのが好きなんです。」と言う。追われるようになったら私はナゼか冷めるんですよ、と。  
 わたしにはそんなことは到底できないと思った。そんな恋愛ばかりしていると、一生がバクチになっちゃう。いつになったらホッとできるんだろうか?いや、彼女はホッとすることなど望んでないのかもしれない。自分の始末は自分でつけるという彼女。60過ぎて夫も子供もいなくても後悔しないであろう彼女。そんな彼女だからこそ、S氏と楽しい恋愛ができたんだと思う。胸をときめかせ、時につれなくされ悲しんで。でも、やっぱり心の中では「落ち着き場所」を求めているんじゃないかとも思う。  

 そして、S氏が日本に戻ることとなった。  

 「今度は東京で会いませんか?」とS氏からメールが来たという。 ジュンコさんは最初はためらいつつも、やはり会ってみることにした。パリで会うのと東京で会うのとどう違うのかを確かめたかったから、と。  
 実際に東京で会ったS氏は、パリで会った時と比べるとやはり見劣りしたと、後に報告として受け取ったメールに書いてあった。またしても食事後、今度は彼の宿泊しているホテルに行ったものの実は何もせずに、少し添い寝だけして戻ってきたんだと。  
 彼女の気持ちは、それで見事に昇華されていた。愛情の矢印は、もうすっかり別のところへ方向転換している。  
 「もしかしたら、わたしはパリに恋していたのかも。」と彼女は言う。  

 今日も彼女はひたすら追いかける。
カンタンはルビーを追いかけ続け、最後には結局2人とも警察に捕まって、一緒に牢屋に入れられることになり、「これでようやく一緒に居られるね」と嬉しそうにするけれど、ジュンコさんの愛情が一所に留まる日は、いつかやってくるのだろうか‥‥‥?


2004.9.29. ジョリ



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