ホーム 開店☆みなづき食堂 > 沈黙の羊たち −ラムロースト−

開店☆みなづき食堂

沈黙の羊たち −ラムロースト−

突然だけれど、動物性たんぱく質について、個人的な好みの順位を付けてみようと思う。小難しいように聞えるけれど、単純に言って「メインは何を召し上がりますか?」と聞かれた時に答える順番である。
まず、生魚。お刺身・カルパッチョ⇒たたき⇒グリル⇒煮魚…と生から遠ざかるに従って順位が下がる。
次に生肉。同じく、馬刺し・牛刺し・レバ刺し⇒生ハム⇒とりわさ⇒焼き物…と生から遠ざかって順位は下がっていく。

そんじゃあ「お肉屋さんで売ってるもの限定で」となったらどうか。
鶏肉⇒ラム⇒豚…となり、『みなづき食堂15−¥80の境界線−』でも書いたけど、牛は最下位。カルビだのロースだのなんてもんは一生食べなくてもへっちゃら。この世からなくなっても困らない物リストのかなり上位にランクインしている。

ただし、渋谷文化村ちかくの東急の地下『ローゼンハイム』で売ってるローストビーフと、シカゴヒルトンの地下レストランで食べたフィレステーキだけは例外。上手に火が入っていて、ほとんど生に近く、なかなかよろしかったと記憶している。
ただしヒルトンでは「焼き方はオーブルー(ブルーの火の上を通らせただけ、の意味。レアよりもっと生に近い)」で、ソースは「ソイソース(おしょうゆ)とマスタード」というワガママなオーダーを聞いてくれたことと、アメリカ滞在でナマモノに飢えていたというサービスポイントが付いていたことは否めない。まさしく「限りなく生に近いブルー」である。あれ?なんか違う?


ところでラムである。うちのパパレストランではよくこれを出してくれる。ラムというのは生後1年未満の仔羊のことで、ベイビーラムになると生後90日未満、さらにミルクラムでは、なんと生後30日という短命の仔羊ちゃんの肉になってしまうんだそうな。やわらかく、臭みもなく、酔っている時でも1本くらいなら食べられる。
そういえばダールの小説で、夫を撲殺する時に使った凶器もラムだった。森瑤子先生のデビュー作では、主人公の女性が、英国人の若い恋人にこっそり「ラムローストのミントソース」というやつを届けていた。そう考えると、ラムというのは、ある種の人々に何らかの退廃やミステリーを感じさせるものなのかも知れない。



言ってみれば、この「仔羊」っていうことからしてたまんなくないか?アンモラルな匂いがそこはかとなく漂って、幼い子供を虐待している…という、罪の意識に苛まれながら食す嗜虐的な快楽。男性諸氏が思わず「ん!?」と反応してしまう「ロリータ」とか「ヒトヅマ」とかいう響きに似ている気がする。あれ?それも違う?
ともかく、幼い命を奪ったのなら、せめて骨までかじりついてあげなくては申し訳ないと思わずにはいられない。

…というわけでのラムローストである。
骨付きの仔羊肉は、塩こしょうしてフライパンで焼く。肉を取り出した後のフライパンに赤ワインとおしょうゆを入れて煮詰め、ソースを作る。適当に煮詰まったら火を止めてからバターひとかけを入れてよく混ぜる。火を止めた後にバターを入れてとろみを出すことをバターモンテというのだけれど、この技は白ワイン+バターにすれば、魚料理のソースにもなるので覚えておくとけっこう便利かも。できあがった赤ワインのソースに、あればバルサミコをちょっと入れて、焼いた仔羊の上からだーっとかける。面倒だったら市販のソースを使っちゃってもいいしね。あとは適当に、茹でたじゃがいもやブロッコリー、フレンチフライなんかを添えればそれでよし。おうちでできる簡単フレンチである。


All rights reserved © 2004.3. Tomoko Minazuki