長い長い大学受験というトンネルを抜けると、俺はデブだった。
高校時代、寝る前に必ずポテトチップスを一袋平らげ、さらに甘いジュースを飲むのが日課になっていて、そりゃー太るわ、という状況だったのだ。
しかしそれに気付いたのは大学に入ってからで。
ある日自分の部屋で、裸で座っていてふと自分のお腹を見て、ぎくりとした。
わ、割れている!
6つに割れてるんじゃなくて、3つに重なっている!!
その頃俺は、『ロッキー』にはまっていた。
東京という都会の片隅で寂しく暮らす一人の男。
俺はロッキーそのものだ、とすっかり思い込んでいた。
例のテーマ曲を聞く度に心躍る。
よし、俺もトレーニングだ!
今もそうだが、その頃はもっと単純だった俺はそう決めた。
ダイエットなんてしたことなかったが、このロッキーと同じことをしてみたらどうなるかな、と単純に思った。
これは、十数年前の思い出話である。
単純な俺はまず、ロッキーのトレーニングシーンを単純に書き出してみた。
(尚、当然の如くジムでやるようなトレーニングは省く)
- 朝起きる。
- 体を動かす。
- ラジオを付ける。
- 生卵を7つ飲み込む。
- ジョギングをする。
- スクワット、シャドーボクシング、腕立て伏せ、腹筋をする。
- 街ゆく人たちに声援を受ける。
- それに手を振って応える。
- 階段を駆け上がる。
- 一番上でガッツポーズをする。
…これがひとセットだ。
これを自分でこなすとするとどうなるかな。
俺は自分で可能なメニューにカスタマイズしてみることにした。
- 朝起きる。
→早起きは嫌だから夕方にしよう。
- 体を動かす。
→ストレッチね。問題なし!
- ラジオを付ける。
→ラジオはあんまり聞かないからテレビを付けるか。でもテレビ付けたら見始めちゃってダメだからこれはパス。
- 生卵を7つ飲み込む。
→卵代がもったいないなあ。パスかな。
- ジョギングをする。
→やろうじゃないの。
- スクワット、シャドーボクシング、腕立て伏せ、腹筋をする。
→外でやると恥ずかしいから、家でやっていいこう。
- 街ゆく人たちに声援を受ける。
→…
- それに手を振って応える。
→声援を受けたら応えよう。
- 階段を駆け上がる。
→まず階段を探さないといけないなあ。
- 一番上でガッツポーズをする。
→これははずせないでしょう!
いける!
準備は整った。
あとはトレーニングを始めるだけなのだ!
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