ホーム突撃!映画体験隊 > 『男たちの大和』の甲板に上がる

『男たちの大和』の甲板に上がる(1)

挑戦者:工房の主人


2005年末。
今年も実家広島に戻りました。

『広島に戻る』と言うといつも勘違いされるんですが、『広島県に帰る』だけであって僕は『広島市民』ではありません。
そんなパリパリ☆シティーボーイではありません。
広島市から電車でちんたら1時間半もかかる田舎町です。

でまあ、実家でぐでぇーってしてたわけです。例の如く。
正月の新聞とか、分厚いですよね。
そいつをパラパラしたんですね。

そしたら『映画ロケ地マップ』なる文字が目に入ってきました。

不思議なんです。
ジックリ見てたわけじゃないのに、
ダラダラしてても、
酒飲んでても、
寝っ転がってても、
そういう文字は
ガン
と目に飛び込んで来るんですよね。



僕はガバっと起きて、ふむふむと記事を読みました。
それは2005年、広島の各地で撮影された映画『男たちの大和』のロケ地の詳細記事だったんです。
まあそれは何となく知ってたものの、大和の実物大セットが尾道(おのみち)に組まれていると知ってびっくり。

次の日、尾道に行くことになっていたので、この偶然にヨロコンだわけです。



尾道は僕が生まれ、幼少期を過ごした場所。
そして、文学や映画の街としても有名です。
小さい頃歩いてた街角のそこここが、尾道出身の映画監督大林宣彦の映画『時をかける少女』『さびしんぼう』といった作品に登場するのです。

工房の主人=尾道生まれ    ーーー(1)
尾道=映画の街        ーーー(2)
工房の主人=映画を作っている ーーー(3)
この(1)〜(3)の方程式を解くと、もう皆さんお分かりですよね?

大学生活に溶け込めなかった俺は、故郷尾道に戻ってきていた。
自分に自信をなくし、全ての事に対して投げやりになっていた。

俺は何がやりたいんだろう…

ある晴れた日の昼下がり、俺は目的もなくフラフラと尾道の坂を歩いた。
その時、俺の耳に威勢のいい声が聞こえてきた。

「よぉーい・・・はい!!」
カチン!


俺はそっと近付き、塀の角を曲がってみた。

映画撮影が行われていた。

見たことのある役者が学生服を着て演じており、その隣には同じく学生服を着た連中が数名。
その向こうには大きなカメラが黒光りして鎮座し、腕まくりをした土方のようなカメラマンがファインダーを覗いていた。
すぐ側で監督らしき人がかたわらのモニターを覗き込み、その後ろには数名のスタッフが遠慮しながらそれでも食らい付くようにモニターと役者を交互に見つめていた。

その場には、30人ほどの人がいただろうか。
誰一人として同じ動きをしている人はおらず、皆、それぞれが自分の持ち場で自分の仕事をしている。
俺は気付くと、夢中でその光景を見つめていた。

「はいカットォ!!」

 ふぅ、という感じで現場全体の緊張がゆるむ。

「にいちゃん、」  
 振り返ると、一人のスタッフらしき人が側に立っていた。
彼は額の汗をぬぐいながら、俺の目を見て言った。
「映画好きなんか?」  
 俺はぎこちなく、うなづいた。
「大変だぜ」  

 どう答えようか、俺はとまどった。
「でもよ、俺もよく分からんまま始めちゃってさ」  
 彼は足元の荷物を「よっ」と持ち上げて肩にかけた。
「好きだったらやってみたらいいんじゃねーのか?」  
 にやり、と笑って彼は歩いていった。

俺はその場に立ち尽くしていた。
何だかワケが分からなかったけれど、体中から鳥肌が立っていた。
おおやってやるよ、
彼の背中に向かって俺はつぶやいた。

いつか。
映画を作るようになって、世に名前が出るようになったら。
俺は彼を探そうと決めた。
探し出して、一緒に汗かいて、怒ったり笑ったりしながら映画を作りたい。
それから俺は東京に戻り、何かに取り憑かれたように映画を作り始めた。

ある日、映画雑誌をめくっていて、俺はぴたりと指を止めた。
そこに載っていた写真は、まぎれもなく、尾道で俺に声をかけた彼だった・・・

なぁんていう背景があるとかっこいいですね。
すいません、上の、全部ウソです。

なぜか分からないけれど、不思議なくらい、尾道の映画事情には興味がなかったんです。
尾道三部作と言われる映画も、実はひとつしか見たことがない。

実はとある映画祭で大林宣彦監督ともお会いしたことがあります。
「尾道生まれなんです」と自己紹介して、名刺もいただきました。
でも、僕の目的は、その映画祭に来ていた椎名誠でした。
まあ、そんなもんです。

まあそんなかんなで、尾道を訪れ『男たちの大和』のセットを見学してくることにしたのです。

(続く)


映画工房カルフのように All rights reserved ©Since 2001


ホーム突撃!映画体験隊 > 『男たちの大和』の甲板に上がる