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突然『キンダガートンコップ』 (2)

挑戦者:工房の主人


まいった。
病気には参った。

まったく起きれず、日本人団体が寝起きする大部屋の片隅で、寝袋にくるまって寝てばかりいた。
通りかかる人がたまに声をかけてくれる。
俺は、ここにボランティアに来たのに… 何とも言えない気まずさが漂う。

俺がふらふらと舞い込んだそこは、日本人ボランティア団体の本部だった。
長期で滞在し、子ども達を相手にどうやって行動を起こしていくかを戦略的に話し、スケジュールを立て、行動していく集団がここにいた。
こういうところに、俺のような『ちょっと興味を持ってちょっとだけ体験的にボランティアをしてみたい』という軟派な人間がやってくる。
あまり詳しくは聞かなかったが、団体の運営費の一部は、俺のような人間の参加費から充てられるようだった。

俺のような人間は今回は他に3人いた。
この、俺を含めた4人が、ひとチームとなり、団体の本部からちょっと離れた民家にホームステイする。
そして毎日本部に4人で通い、本拠地メンバーのお仕事を少しお手伝いさせてもらうのだ。

熱が下がり、恐る恐る外を歩けるようになった頃、3人は日本から到着した。
男が1人に、女が2人。
3人とも『今日本から来ました』という感じの、明るい色の小ぎれいな格好をしていた。対する俺は、

無精髭で、病み上がりで、げっそりして眼光だけがギョロついていた。
俺はなぜかリーダーになり、2週間のボランティア生活が始まった。


ボランティア生活、始まる

 本部には学習室やプレイルームのような部屋があり、毎日近所のガキどもがやってきた。
下は小学一年生くらいのから、上は中学生みたいなのまで。俺より身体が大きいやつも何人もいた。

ガキなんて、ただ遊んでやればいいんだろ。
本部の人たちは、学習用のカードなどを使って教育ゲームなんかをやっている。俺たち4人は、しばらくそれを観察した。
なんだか自分が幼稚園児に戻ったみたいで、少し不愉快だった。
いや、不愉快の理由は、自分達がただ本部の人たちの言いなりになるしかない、ということにあったのかもしれない。

俺はこんな国までやってきて、何やってんだろ…

子ども達とチームに別れて言葉遊びをやったり、手を繋いで輪を作ったり。
俺はガキと同じように、「次は何するの?」という顔でひとつひとつをこなした。
あまり心を開かない子や、逆にニコニコしてすぐに抱きついてくる子もいた。
「あまり愛情を受けられない子が多いから、ちゃんと受け止めてあげて」 と本部の人にアドバイスを受ける。
俺はぎこちなく、その子の肩を抱きしめてみた。

『授業』が終わると、今度はみんなでグランドに出てボール遊びを始めた。
すぐに身体の大きいガキどもが近付いてきて、サッカーやろう、と言う。
うるせー!俺はそういうのが好きじゃねえんだよ!
そう思っても逆らえない。仕方なくボールを恐る恐る蹴り返す。
すると先ほど抱きついてきた子が、また隙をついて抱きついてきた。
あー、うぜーな、おい!
どいつもこいつも疲れを知らず、何をやっても「もっともっと」とせがんでくる。

夕方、ガキどもが家に帰り、本部の人たちが反省会をしている最中、俺はぐったり疲れていた。
病み上がりのせいか、どうも身体に力が入らない。
それに、本部の人たちとうまくコミュニケーションがとれない。
彼らもみんな、ボランティアたちである。学生も社会人もいる。
数カ月単位で滞在するため、日本にいるときから何度も打ち合わせをしてきている。
ふらふらとやってきた、目的もはっきりしない俺の居場所が、ない。
彼らは親しげに話しているが、俺が話しかけると、あいまいに答え目をそらし静かになる。
俺は、内輪で固まる集団が、大嫌いなのである。
俺のチーム3人がやってきてからも、あまり状況は変わらなかった。

あ〜あ、これが2週間も続くのかよ…

今考えると、単に俺の性格の問題な気もする。
つまり、むかついてその気持ちがありありと顔に出ていたのだと思う。
今でこそ多少は性格が丸くなったが、20歳前半は、とにかく敵意むき出しで生きていた。

活動開始そうそう、俺の中に不満が鬱積し始めていたのだ。

(続く)


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