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突然『キンダガートンコップ』 (1)

挑戦者:工房の主人


 俺はガキが苦手である。

横に来られても、何をどうすればいいのかが分からない。
しかし何らかの目的のために、どうしても子どもの相手をしなければならなくなったとしたら…

シュワちゃんの映画、『キンダガートンコップ』をご存じだろうか。
直訳すると、『幼稚園刑事(デカ)』といったところか。
荒くれ刑事である主人公(シュワちゃん)が、潜入捜査のために幼稚園で子ども達の先生をやらなければならなくなるというコメディーである。
23歳の時、まさにこんな状況に身を置かれたことがある。

 当時俺は、3回目の大学3年生だった。
妹が先に社会人になってしまうと周りは心配していたが、当の俺は1年半バイトして貯めた資金を使って2回目の海外旅行に行く準備を進めていた。
1回目は、英語圏で働きながら1年間滞在した。なので今度も同じようなことをしてもつまらない、と考えた。
じゃあ、徹底的に英語を話す国をはずしていこう。あちこちで観光じゃなく何か目的をもって何かしらしてこよう。

ところでしっかり書いておかなければ敵を作ってしまうので説明しておきます。
少し腰が引けてるので文章も少し丁寧になってしまうのであります。

俺は別に、「観光なんて嫌だね。現地の人と交流してこそ旅ってもんだぜ」なんていうよくある意見の持ち主ではないのであります。
自分の性格が、「きっちりガイドブック見て旅行スケジュールを立てて、どこで何を見てどこで何を食べる」という予定を立てるのがどぉーしよーもなく苦手なため、観光というのができない体質なのであります。
逆に言うと、友人たちとグループで旅行などして、誰か別の人がリードをとってあれこれ世話してくれるのなら、喜んで観光旅行について行くのであります。

さて、また「俺だ」文体に戻す。
いろいろ調べた結果、ユーゴスラビアの国々でボランティアをやっている日本の団体を発見。
現地のことばも分からんし、そこで起こってきた歴史に詳しいわけでもない。
でも、体力だけはいっくらでも提供しますよ、っていう俺にはぴったりではないか。
しかも現地は人気観光地でもないので、ガイドブックもない。そんな場所にはボランティアで行くのがますます適しているのではないか。

今回、メンバーは俺を含めて4人。
この4人で一緒に現地の家にホームステイする。
日本人のボランティア団体の本部は町の中にあり、そこに通ってボランティアをする。
簡単に書くと、そんな感じである。
…こんなこと書くとほんと団体の人に怒鳴りつけられそうだが、まあ、行ったらなんとかなるだろう、団体の人もいるわけだし…とほとんど深く考えずに出発してしまったのだった。

いつも通りである。


ボスニアヘルツェゴビナ
出典: フリー百科事典『ウィキペディア (Wikipedia)』

そんな訳で、俺はユーゴスラビアのうちのひとつ、ボスニア・ヘルツェゴビナの首都サラエボにやってきた。
(ちなみに歴史的に何度も国の名前が変わっている地域なので正確には正しくないんですが、まとめて『ユーゴスラビア』と書かせてもらってます。それから、これより以降、地名はこの、サラエボしか出てきません。)

俺のチームは4人一組、と書いたが、実は俺だけ別路で現地入りした。
ややこしいことは一切省いて書いてしまうが、他の3人は日本から直でサラエボに飛び、俺はヨーロッパを旅しながら陸路を渡ってサラエボに向ったのだ。
日本で約束し、海外の地で約束の日に約束の場所で会う。
なんだかかっこよく聞こえるが、俺は予定も立てないフラフラ旅をしていたので連絡の取りようがない。
ここから
現地で自分のチーム3名と会うまでもかなりドラマチックなのだが、すっ飛ばす。

あまりに過酷な精神状態に追い込まれた俺(写真参照→)は、げっそりして日本人ボランティア団体の本拠地にたどり着き、そのまま高熱を出して4日間も寝込んでしまった。

俺にはロッキーダイエットの他に、過酷な撮影をする映画ダイエットや、海外放浪ダイエットなどの荒技が存在する。

熱がさがった頃、俺のチーム3名が日本から到着した。
さてボランティア、とは具体的に一体何をするのか。
基本は子ども達の世話、なのである。
政情は安定しているものの、ほんの数年前まで戦争をやっており、親を亡くした子ども達が大勢いる。
運良く親がいても、まわりで起こっていた殺りくのために、精神状態は決してよくないのだという。
町そのものもあちこちに残骸が残っている状態。
そんな場所で、子ども達に遊びを教えてあげる。日本の文化を教えてあげる。

なんか面倒くせーな、と思った。
しかしそうも言ってられない。
だって他にボランティアっつったって何にもできやしないのだ。
ガキの相手くらいしてやってもいいか、と少しまだフラフラする身体で、俺はふてぶてしく考えていた。

(続く)


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