2003年春、俺は新作『ナット・ノーバディ』の制作に備え、準備を進めていた。
そこに呼び出されたのが広島の高校時代からの悪友、西山君。
だいたい俺が彼のことを「君」付けで呼ぶ時は彼にとっていいことはないのである。
「助監督をやってくれんか。」
と俺は西山君に頼んだ。
「ま、ちょっとだけ俺のお手伝いしてくれればええけ。簡単な予定表とか、ま、ちょっとだけ電話で連絡とったりとか、ま、そんなもんじゃ。」
と、俺は「ま、」の多い言葉で彼に説明した。
「俺もまあ、血の気が多いじゃん。撮影中に怒鳴ったり、通行人とかと喧嘩してしまうんよ。じゃけ、もし俺がおかしくなったら止めてくれ。お前なら全然気がねせずに何でもできるじゃろ。」
「まあな。もう10年になるからな。」
「じゃけえ、お前の存在が必要なんよ。」
俺は西山君の顔を見て言った。
「助監督をやってくれんか。」
西山君はさらりと言った。
「ええよ。」
俺はにやりと笑った。
出身地が同じだから、と言ってしまうと広島の方々に申し訳ないのだが、この西山君、とにかく俺と頭の中が似ている。
俺は形から入る人間で、つまり彼も形から入る人間なのだ。
彼に助監督やってもらうにあたり、まずどうするか?を話した。
しかし頭の中のシンプルさも似ている。
「まずはカチンコが必要である!!」俺たちは5秒で結論に達した。
次の日、仕事中に西山から調査結果メールが届く。
『カチンコ、ネットで調べたんじゃが、いっこ1万円くらいするぞ』
俺も仕事中なのに返事を書く。
『買うと高いな。』
西山から返事が来る。
『どうする?半分は俺負担してやってもいいぞ。』
俺も返事を書く。
『いや。余分なお金は使いたくない。』
西山
『じゃあどうする?』
俺
『作る。』
週末、俺たちは仲良く新宿の東急ハンズに出かけた。
俺たちはカチンコ制作にあたり、次のように決めていた。
- 安い材料で作ること
- 完全にオリジナルのものにすること
- かなりしっかりした造りであること
- 腰に下げれるようにすること
- 腰から着脱が簡単であること
- かっちょいいこと
特に最後のは、満場一致で可決した。
俺たちはまず、日曜大工コーナーに行った。
腰に下げる金具を探すためである。
よく考えてみれば、カチンコを作るのに最も関係ない部分なのであるが、「腰に下げるのはかっちょいい」というのが頭を占めているのだから仕方がない。
壁にはありとあらゆる腰下げ金具が並んでいる。
「これよくねえか?」
「おお、これもいいねえ」
「こっちはちょっと高いけどかっちょよくね?」
「ちょっと腰にはめてみいや」
「これ持っとって」
「おう」
…俺たちはそこで小一時間つぶした。
俺たちは次に、プラモデルコーナーに行った。
西山が大好きだからである。
よく考えてみれば、カチンコを作るのにまったく関係ない場所なのであるが、工具を探しているうちにたどり着いてしまったのだから仕方がない。
壁にはありとあらゆるプラモデルが積まれている。
「これよくねえか?」
「おお、これもいいねえ」
「こっちはちょっと高いけどかっちょよくね?」
「ちょっと箱開けてみいや」
「これ持っとって」
「おう」
…俺たちはそこで小一時間つぶした。
俺たちは次にハンズを出た。
帰るためである。
よく考えてみれば、カチンコを作るのに必要なものは何も買わなかったのであるが、疲れてしまいどうでもよくなってしまったのだから仕方がない。
材料は後日、俺が一人で買いに行くことになった。
最初からその方が早かったのだった…
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