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インディ・ジョーンズになりたい!(2)

挑戦者:工房の主人


カウボーイハットを探し始めた俺は、すぐに街のそこここにある土産物屋のショーウィンドウにカウボーイハットを発見した。
何個も何個も重ねられて飾られている。
俺は店に入ってみた。
しかしそれらはプラスチックでできていたり、オーストラリアの国旗があしらえてあったり…

俺が欲しいのは、こんなおみやげものじゃねえ!!

インディーはもっと手あかのつきそうなちゃんとしたやつを持ってるに違いない。
俺は土産物屋は一切無視することにした。

しかしどこをどうさがしたらいいのか分からない。
「インディー・ジョーンズになりたい方はこちらから」って看板でも出てりゃいいんだが…
あの清掃員のおっさんが行く場所は…いや、おっさんたちみんな同じのかぶってたから、ありゃ制服と一緒だな。
むむむ…

そうか、アウトドアショップはどうだ??
俺は決めた。
よおし、この街中を歩き回ってでも、どんな小さくても、アウトドアショップを見つけてやる!
どんな場所に隠れていようと、見つけだしてやるのだ!!

あ、あっさり発見。

チロルハットの看板が出ているお店に入る。
俺はアウトドアグッズにも実は目がない。だから、目標のインディーハット(注:俺が勝手に名付けました)を探し出す間も棚の商品を眺めているだけで十分楽しめてしまうのである。
のんびり探そう。俺はうれしくなった。

「いらっしゃいませ」
 無愛想な熊のような店員がぬっと近付いてきた。
おいおい、放っておいてくれよ、俺はのんびり物色したいんだよ、と「Just Looking(見てるだけ〜♪)」という中学校の教科書に載っているような受け答えをしようとした。
が、見てるだけ、はウソだろおい、という内なる声が響き渡る。
見てるだけどころか、思いっきり探し物じゃねえかよ!という正直で小心者な声が響き渡る。
「何か探し物でも?」
 熊は俺の顔を覗き込むようにしてさらに訊ねてくる。そうか、俺は今、獲物を狙う目つきをしていたんだな、そうかそうか。
「インディー…」
 ちょっと待て!インディー・ジョーンズになりたいんです、とでも答えるのかお前は!
「帽子はどこですか?」

 そうやって俺は地下に連れていかれた。しつこく俺につきまとう熊を追い払い、俺は店内を見渡した。
うははぁぁ…
俺は腰砕けしそうになった。
あっちにもこっちにもインディーハットが!!
俺は目をハートマークにして、いや、目を冒険者のそれにして、獲物を見つける鷹のごとくすばやく目標に近付…
どん。
「あ、すいません。」
 人にぶつかってしまった。

あるある、あるよインディーハットが…
俺は手に取りかぶってみる。頭の中にインディー・ジョーンズのテーマ曲が広がる。
ほしい!
値札を見る。

15000円!

日本ですらそんな帽子は買わない!
裕福な短期旅行者と違い、俺はそれまで結構長い間海外をさまよっており、あと数カ国廻ったら帰国しよう、という状態にあった。
つまり、金はそんなにない。正確に言うと、無駄な買い物をする金はない。
後日談になるが、オーストラリアの別の街で、宿がいっぱいで公園で寝ようとしていたら親切な宣教師に助けられたことがある。
「金がないからここでいい」と言ったら、じゃあ私が払うからホテルまで連れてってあげましょうと、お金を握らされてしまった。
金がない、ってのは、余計な金を使いたくないってことだったのに…

もちろん、最悪の最悪の状況に備えて、『親に頼んで送金してもらう』という軟弱な赤電話は用意されているものの、それだけは避けねばならない。俺のプライドが許さない。
そもそも、何て頼むのだ。

「あ、もしもし父さん、…ん?元気だよ、うん、大丈夫大丈夫。あ、あのねー、えっと申し訳ないんだけども、お金をちょっと貸してほしいんだよ。帰ったら絶対働いて返します。…ん?あ、別に困ってるわけじゃないんだよ、えっと15000円だけ。…ちょっとねー、インディー・ジョーンズにならないといけないんだよね。え?日本でなれ?そうじゃないんだよ、今じゃないといけないんだよ、インディーには今なることに意味があるんだよ!今なんだよ!それが青春てもんなんだよ!!」

となり、ただでさえ「危ないから早く帰ってきなさい」とかしましい母親に、また「インディーさんだかなんだかは後でいいから、早く帰ってきなさい」と言われる羽目になるのである。

*******
ま、話は一気に飛んでしまうのであるが、そうやって俺はそのあと2、3軒のアウトドアショップをまわり、念願の品物を手に入れた。色といい形といい、雰囲気といい、完璧だった。3000円ほどだった。
俺は決めた。
この帽子、何があっても手放さないぞ。
俺のこれからの冒険の数々は、こいつと一緒なんだぞ。

俺は愛用のビクトリノックス(スイスのアーミーナイフ)を腰にさげ、意気揚々と街をかっぽした。
頭の中には、例のテーマ曲がずっと流れ続けている。
公園で、コアラやカンガルーなどの猛獣とも闘い、狩ってきた野生動物の肉(買ってきたとり肉弁当)を喰らった。

猛獣と戯れる筆者



さて、街を歩いていると、右手にレンタルビデオショップが現れた。
そこでピン、とひらめいた。

俺のこの勇姿を、本家本元にお見せしたい!!

ビデオ店の中にはいろんな映画のポスターがあるはずだ。
インディー・ジョーンズのポスターの前に立ちはだかるのだ。
俺は店に入る。
そして、
すぐに、
いましたよ。
インディーさん。

が、俺はそこで違和感を覚えたのである。
な、何なんだ、一体…


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