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インディ・ジョーンズになりたい!(1)

挑戦者:工房の主人


 もう何年も前のことだ。
旅先の外国から、オーストラリアに移動する、と決めて旅行会社のカウンターに行った。
カウンターにはガムをくっちゃくっちゃさせている女が一人で座っているだけだ。
なんだこいつ、と俺は思った。
外国には時々、俺らをあきらかに見下す態度をとる奴らがいる。
そんな時はこちらから見下し返してやることにしている。

「どちらの街に行くんです?」  
 女はこれでもか、というくらい事務的な口調で聞いてきた。
で、俺は、「う」と詰まってしまった。
地図は見てきたものの、基本的に行き当たりバッタリな俺は、地名を覚えていなかったのだ。
オーストラリアも広い。
そもそも地名はシドニーくらいしか知らん。あとなんかいろいろあったなあ…

これが日本の旅行会社ならきっと、地図をさっと引っ張り出してきて「お客さまのお望みの旅先はこちらでしょうか?」とにっこり笑顔を見せてくれ、お茶は出てくるわ肩は揉んでもらえるわ、大変なことになるんだが、目の前のこいつは、さっさと自分の地図を出して確認しろよ、とばかりにあきれ顔を見せてくれ、お茶は濁せないわ気を揉んでしまうわ、大変なことになってしまった。
「オーストラリアの…」  
 悔し紛れに俺は応えた。
「右の方」

***  

いつも笑ってしまうのだが、これだけ適当でもそれなりに旅行ができてしまうのである。
俺は”オーストラリアの右”にあるブリスベンという街を歩いていた。
なーんも考えず、ただただプラプラっと歩いていた。
空は青々と晴れ渡り、街の至る所に陽があたって影がないような気さえしてくる。
とにかく人々は陽気だった。
誰も彼もがサングラスをかけ、格好よく見える。
実際は日差しがあまりにもきついために、目が光に対してあまり強くない白人はサングラスをかけざるを得ない、という事情があるらしいのだがそんなことは当時は知らない。

そこへ一台の車が俺の背後からついーっとやってきた。
清掃車だった。
おっとっと。
俺がよけると、清掃車のゴミを放り込む辺りにつかまって立って乗っているおっちゃんが「悪いな」って感じで片手を上げてニッコリ笑った。俺の少し前方に車が止まると、おっちゃんはヒラリ、と地面に飛び下り、ゴミかごを軽々持ち上げて中身を清掃車に放り込む。そして清掃車はまたついーっと走り去っていった。

かっちょいい…ここは、世界一かっちょいい清掃員のおっちゃんのいる国だ!
俺はしびれた。
あんな風にかっちょよくなりたい!
どうやったらあのおっちゃんみたいになれるのか。
清掃員にはなれそうもない。
サングラスはすでにかけている。
何が足りない…?
俺はあのおっちゃんを思い出した。
カウボーイハットにちょっと無精髭、褐色の肌、たくましい腕、白い歯…
そう、
その帽子をかぶったおっちゃんはまさに、インディー・ジョーンズそのものだったのだ!
な、なりたい… インディー・ジョーンズになりたい!!

これから俺はこの国で、砂漠やら湿原やら岩肌やら、そしてキャンプやら水泳やら砂遊びやら、いろいろいろいろいろいろ冒険の限りを尽くすのだ。
そうなのだ!
この街で俺はインディー・ジョーンズにならないといけなかったのだ!

インディー・ジョーンズになるに必要な項目を挙げてみた。

  • ちょっと無精髭→そのうちオッケー!
  • 白い歯→肌が黒くなれば、相対的に白く見える。オッケー!
  • 褐色の肌とたくましい腕→今の俺を知る人は信じられないかもしれないが、当時の俺は身体を鍛えるのが趣味みたいになっていて腹筋も6つに割れていたし胸の筋肉も少しぴくぴく動かせていたのだ。というわけで当時はオッケー!

残るは、
残るは…

カウボーイハットのみ!

俺はどこで買うか、物色を始めた。

 


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