手作り映写機に挑戦する(6)〜『突然、映写機・ザ・ファイナル』 挑戦者:工房の主人 |
タイトルにもある通り、この連載、今回でおしまいです。 ファイナルです。 最近、『ロッキー・ザ・ファイナル』にカンドーしたばかりなので、このタイトルなのです。 どうでもいいですね。 さあ、おしまいを飾るお話です。 簡単におさらいしておきましょう。 ここ数年、手回しの手作り映写機制作に向けて情報収集を行ってきました。 おそらく、比較的簡単に入手できるレベルの情報は、120%すべて知っているはず。 いろいろあり、仕組みを理解し、少しずつ組み立て始めるところまで、俺は行き着いたわけです。 しかしさすがにのんびりやり過ぎました。 今年はちょっと気合い入れて、2007年度中に試作機を開発してしまおう! 紙フィルム映画制作に向けて一気にダッシュなのだ! と俺は鼻息を荒くしていたわけです。 こんなニッチな商品、作ろうなんて奴は俺だけに違いない。 俺が作るのだ! 俺が商品化して、世に問うのだ!! 2007年某日。 俺はフラッと本屋に立ち寄りました。 5階建ての、そこそこ大きな本屋です。 不思議なもので、あれだけ至る所に様々な情報がひしめきあっている店内において、 俺にはそこだけ、スポットライトが当たっているかのように思えたのです。 それは、一枚のポスター。
一瞬、頭の中が真っ白になりました。 慌てて、その付録付き雑誌を探し出し、持ち上げたその足でレジに持っていきました。 値段すら確認せずに。 その日の俺は、たまたま全身黒ずくめ。 革ジャンに黒のサングラスをかけている。 そんな人間が、よたよたと『大人の科学』を持ち上げ、明らかに動揺しながら買っている。 あー、笑うがいいさ。 本屋を出て自転車で帰る道すがら、じわじわと正気に戻っていきました。 そして、じんわりと感情が頭をもたげてきました。 学研よ。 なんてことを‥‥ こんなもの販売するんじゃねえ・・・ そして今、俺の部屋には、夢にまで見た(いや、見てないか)紙フィルムの映写機が飾られています。 『ニュー・シネマ・パラダイス』を見て憧れてから、実に10余年の歳月が経っていました。 大人の科学の、その付録を動かしてみます。 部屋を暗くして、紙フィルムをセットして、クランクを手で回す。 カタカタカタカタ‥という小気味よい音がして、壁にはのらくろが映し出される。 これです。 思い描いていた通りのモノです(涙)。 いいもの作ってます(涙)。 大人の科学には、映写機にまつわる情報冊子がついていました。
ソ連のガガーリンが月面着陸する映像を見ている、NASAの長官の気分は、こんな感じだったでしょうか。 「あーNASAけない・・・」なんてつぶやいたでしょうか。 頭に浮かんだのは、この連載をどう落とし前をつけようか、ということでした。 そうだ、江戸東京博物館、行こう。 JRのキャッチコピーのようですが、ふと思い立ちました。 そもそも前回本物を見ることができなかったのが悪いのです。 そうだ、その時本物に触れてさえいれば、俺の頭には着想がわき、その場ですぐ完成させていたのです! そうなのです!そして大人の科学よりも先に完成させることができていたはずなのです!! 悪いのは江戸東京博物館なのです! ・・・なわけはないか。 やっぱり、今まで一度も本物をこの目で見ずに、この企画を終えるわけにはいかない、と思ったのです。 というわけで、出かけました。 前回はほとんどまともに館内を見ていないので、今度は多少はじっくり見ようか、と。 独りではきっと、またふてくされた嫌な入場者になりそうだったので、というか、もしまた展示してなかったら着物を着たマネキンとかに喧嘩を売りかねないので、Mさんに御同行願いました。 そしてある曇天の昼下がり、俺は巨大な建物の下に立っていました。 行ってみると、ロシア美術展のようなものをやっています。 また、よけいな企画のせいで映写機がはずされたりしてねーだろーなー・・ ああ、恐ロシア・・ (すみません、もうやめます) 風がとても強く、今にも雨が降りそうな天気です。 これは、何を暗示しておるのだ・・ 館内に入ります。 前回はほとんど見ていなかったので気づかなかったけれど、いろいろ面白いものが展示されてます。 Mさんと興味の共通点である甲冑など、関係ないところにいちいち反応しながら、進みます。 千両箱を持ち上げたり、版画の仕組みを知ったり。 「ほー」とか「へー」とか感心しつつ、映写機へとじわじわと近づいていくのを楽しみます。 葛飾北斎の像がありました。 彼は、確か100歳近くまで創作活動を続けた巨人です。 俺は、こんなになっても映画を作っているだろうか。 以前から筆入れに使いたいと思っていた、江戸時代のタバコ入れを見つけました。 これを自作してみようかな。 次の目標にしようかな。 江戸時代コーナーが終わり、これから東京コーナーです。 そろそろ、と思ったその時、警備員に呼び止められました。 「出口をお探しですか?」 まだ出んっ!! (たしかMさんとハモりました) 見ると、前回の記事で「オチはいらん!」と心で叫んだ出口の場所でした。 ここは、ミステリー”ツッコミ”ゾーンなのか! それから間もなく、前回館内の人に「この辺に展示してあるはずなんですが・・・」と 言われた場所にやってきました。 心臓がトックントックンと音を立て始めました。 見つけたらどうしよう、という感情と、 見つからなかったらどうしよう、という感情と。 見ないようにしていたんですが、身体と違う方向をつい向いてしまう頭が、見つけちゃいました。 コーナーの角に鎮座している、それ、を。 あぁ、 それが俺の一発目の感想でした。 それから数分感、年甲斐もなくはしゃぎ、今度こそ出口を抜けました。 ふと見ると、外への扉はあちこちが閉め切られています。 聞くと、ついさっきまで外は暴風雨だったらしい。 俺の気持ちと連動してんなー。 さて、両国マップなるものを眺めていると、あっちにもこっちにもちゃんこ屋ばかりではないか。 これは、みすみす見過ごすのはいかがなものか。 というわけで「じゃ、次は、」みたいなノリでちゃんこ屋へ。 地元に住み続けて○年、というお店のおばちゃんの威勢がすごい。 3組の客が並んだ状態で座りました。俺らが真ん中です。 端のカップルが「横綱ちゃんこ」を注文、右隣の二人も「横綱ちゃんこ」。 こっちも負けずに、「横綱ちゃんこ」。 お好み焼きやもんじゃのお店も同じような感じだけれど、作り方にあれこれ指示が飛んでくる。 俺らがしゃべりながら、つくねをゆったりと入れていると、おばちゃんの一喝! 「早くしないと煮立っちゃうでしょ!」 俺らから皿をひったくると、さっさっさっと全部入れちゃいました。 それを見た隣のカップル。同様にゆったり入れていたらしく、女の子が慌ててものすごい早さでつくねを鍋に放り込んでました。 食後、駅まで向かう途中、江戸東京博物館を通過しました。 すると、暗闇に何やら銅像が。 携帯の明かりで照らしてみると、徳川家康と書いてある。 確かに「江戸と東京」は彼にゆかりがあるわけで。 家康殿、俺の中の「映写機へのキモチ」も大政奉還しましたよ。 さて。 Mさんと別れた後、俺は一人でぼーっと考えました。 2007年5月。 2004年から始まったこの企画も、これでおしまいです。 俺の映写機制作の夢も、とりあえずおしまいです。 江戸東京博物館。 ここにも、次いつ来るか分かりません。 江戸東京博物館。 いつも、俺に切なさを教えてくれる場所。 江戸東京博物館。 最後に映写機を見ることができて、よかった。 都営大江戸線は、東京の一番地下にあります。 俺は、長い長いエスカレーターをふと見上げた。 ふ、と息を吐くと、ゆっくりと歩いて上っていく。 (カメラはゆっくりと引いていき、主人公の姿はゆっくりと小さくなっていく) (画面はゆっくりフェードアウト。黒画面に切り替わる) Fin.の文字。 これをいつか映画化・・・・しないな。 おしまい。 |
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