ホーム突撃!映画体験隊 寅さんの故郷を訪ねる(1)

風の吹くまま気の向くまま〜寅さんの故郷を訪ねる(1)

挑戦者:水無月朋子


正直言って、私はほんの少し前まで、寅さんなんてちーとも興味はなかった。
松竹人気シリーズの「男はつらいよ」も、年末になると決まって放映される「忠臣蔵」や「紅白歌合戦」みたいなもんで、ジジババが惰性で観るものだと信じて疑わなかった。だってなんかださいし。それがなぜ寅さんなのか。それには長い時間の積み重ねと、人との出会いに培われた偶然の積み重ねがあったのです。

いつだったか「ハードボイルドな映画を作りたい」という企画が舞い込み、ハードボイルド?ゆでタマゴ?…と、その意味も判らず、当時の私はかなりの苦戦を強いられていた。ハードボイルドとは男のロマンなり!なんてリキまれたって、そんなもん女に判るわけがない。
…で、何かの折にカルフサイト「もっちゃんのそれはどうなん?」で映画評論のコーナーをもっておられる中舘基樹氏と話をする機会があって「ハードボイルドって何ですか?」と尋ねたところ
「基本形は寅さんである」
という指南を受けた。
…は!?ブサイクでカッコ悪い寅さんが男らしさの代名詞!?にわかには信じられず、何ヲ言ッテイルンダコノ人ハ…と、私はますますわけが判らなくなった。時を同じくして、映画制作講座で「人をひきつけるワザ」のコーナーを担当をされているウメツナオト氏にもお話を伺う機会があり、私は同じことを尋ねてみた。「寅さんてハードボイルドなんすかねぇ?」疑心暗鬼だった私に返って来たのが
「いやぁ〜寅さんはカッコいいよ!」
…即答だった。
その後も、いろいろな人にお話を聞くたび、男性はほぼ「寅さん?いいねぇ〜」とおっしゃるのである。男が愛する男の生き方。これこそがハードボイルドなのではないかと気づいたのはそんな時。そうなれば観てみるしかないではないか!…そして、1作、2作と観て行くうちに、渥美清氏演じる、男・車寅次郎にすっかりヤられてしまったのでありました。

「男はつらいよ」に出てくる寅さんは、ゲタに目鼻…という感じで、どうひいき目に見たっていい男ではなし、頭が良いようにも思えない。いつも問題を起こして、妹・さくらに怒られてばかりいる「ダメな兄貴」である。人が良く、義理に厚い…というのは誉めたいところだけれど、それすらも一歩間違えるとただのおせっかい。勝手な思い込みや早とちりで見当違いのことをして、周りの人に迷惑をかけてばかりいる。正直言って、こんな人が近くにいたら相当うっとおしいだろうなと思わずにはいられない。

けれどなぜか許されてしまうのは、バカな子ほどかわいいと言うべきか。問題ばかり起こしているくせに、周囲の人に「寅はどうした?」と気にかけてもらえるのはなぜなんだろう?
大きな語弊があることを承知で言ってしまえば、寅さんを好きな人は、心のどこかで「寅さんみたいに生きたい」と思っているのではあるまいか。
世間の常識に囚われず、いつも自由気ままな旅暮らし。何度ふられても恋する心を失わず、何だかんだと言いながら周囲の人に愛されている…。それってとっても羨ましい生き方なんじゃないかしら。全48作を制覇した時に思ったのは、寅さんを生んだ柴又の町を見てみたいということだった。

こんなせちがらい世の中だからこそ、ストレスを忘れ、しがらみを忘れ、仕事の慌しさも嫌なこともみーんな忘れて、風の吹くまま気の向くまま、春風に誘われて旅に出てみるのも悪くない。
…というわけで行って来ました葛飾・柴又。寅さんの故郷を訪ねる小旅行。同行者は「柴又に行くならぜひ!」とおっしゃってくれた中舘基樹氏でございます。どうぞお楽しみに!


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