ホーム突撃!映画体験隊 幻の「ソウル・フード」はおふくろの味か!?(1)

幻の『ソウル・フード』はおふくろの味か!?(1)

挑戦者:水無月朋子


ソウルフードと呼ばれる黒人の家庭料理と出会ったのは、映画の『ソウル・フード』 が制作されたばかりで、私がまだその映画を見ていなかったハタチの頃。当時つき合っていた彼の実家を初めて訪ねた時だった。その後もアラバマと東京を行き来する間に、数々の「おふくろの味」をふるまってもらったけれど「あの映画さえもっと早くに見ていたら、心の準備ができたかもしれないのに!」と悔やむことも多かった。

「今日はチットリンズだよ」と言われて、そのエキゾチックな名前に何かな何かな〜なんて楽しみに待っていたら、出てきたのは豚モツの水煮だったり。
「トモコが来たから、今夜はキャットフィッシュのフライにしたよ♪」はナマズの唐揚げだったり。
「ハムホークス」は豚足の蒸したやつだったし、「コールドチキン」は焼いた鶏もも肉の残りを冷蔵庫で冷やしたやつだった。
私はオリエンタルの名誉にかけても「モツ煮」はみそ味でどろどろのやつが好きだし、豚足だってコチュジャンをがっちょりつけたほうがおいしいと思う。その時は文句など言わずありがたく頂いたけれど、正直言って期待が大きかった分ちょっとがっかり…ということも多かった。
だけどこれで驚いてはいけなかったのだ。もし『名前と実物ギャップ大賞』があったとしたら、間違いなく初登場第一位!ってもんがしっかり待ち受けていたのだ。

クリスマスも終わった大晦日、ニューイヤーズイブのカウントダウンが終わったあたりでアラバマのママが言った。
「ニューイヤーのディナーにはホッピン・ジョンを作ろうね。これがなくちゃ新しい年は始まらないよ」
 ホッピン・ジョンとは、英語で「Hoppin´John」と書く。ホッピンというくらいだから、ホイップクリームを使ったクリスマス・プディングみたいなもんだろうか。いやいや、新年に食べるくらいだから、日本でいう「おせち料理」みたいな伝統的かつ華やかなお正月料理かも知れない。
正月気分も手伝って、どきどきしながら待ったその日の夜。出て来たのは…豚足の燻製と黒い豆の入ったやわらかいゴハンだった。そういや、その時の彼は「懐かしいなぁ〜」なんつって、その混ぜごはんともチャーハンともおかゆともつかないものを嬉しそうに食べていたっけ。きっとそれが彼にとっての「おふくろの味」だったんだろう。

そんな風に、ソウルフードにはカルチャーショックを受けっぱなしだったけど、ひとつだけ心残りがある。
それは「ガンボ」なるものに一度もめぐり合わなかったこと。ガンボもまた、ソウルフードの代表選手であるにも関わらず、一度も出会わないまま、アラバマの旅は終りを告げていた。
「どんな物なんだろ…」
 思いつつ本棚を漁ったら、何年も前にアラバマのブックストアで買った「ママのキッチン」という本が出て来た。これさえあれば黒人家庭にいつでもお嫁入りできますよ、というシロモノである。残念ながらアラバマの嫁にはなり損ねたけど、一度くらい実際に作ってみるのも悪くない。
中を見ると…ちゃんと「ガンボ」のページがあるではないか!

かくして、数年の時を越え、ディープサウスの幻の味が東京の片隅で復活をとげることになったのである。


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