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残り物革命 −春巻き−

翌日の朝、私はホットプレートの中に残ったものを見つめながらうなっていた。酔った勢いとでもいうのだろうか、お好み焼きの後に焼きそばも作ろう!と盛り上がり、盛り上がったのはいいけど途中で挫折。したがって、大量の野菜を「野菜炒め」にしたものが残ってしまっていたのだ。

プレートいっぱいの野菜炒め。一晩たってしまっているからもちろんヘナヘナである。再チャレンジを試みて焼きそばに入れてしまってもいいけれど、二日続けてソース味はやっぱりきつい。
一歩間違えればディスポーザーへ一直線になりかねないその残骸を眺めているうちに、ふと思いついて端から刻んでみた。
「なんだか行けそうな気がする…」
 そこはかとない高揚感を抑えながら、確信をもってひたすら刻む。手がベタベタになろうが、そんなことは構っちゃいられない。このかわいそうな野菜たちを救ってやれるのは自分しかいないのである。
刻んだらフライパンに移し、おろししょうがとにんにくを入れてみる。その上から塩こしょう、お醤油とごま油、あればオイスターソースなんかをざざざっとふりかけ、ついでに五香粉(うーしゃんふぇん)も少々。
これに水溶き片栗粉を入れてまとめてみた。

…その結果。
じゃじゃーん!とてもリサイクル品とは思えない「春巻きの具」ができたではないか!!
これを春巻きの皮(たまたま市販されているものが冷蔵庫にあったけど、なければライスペーパーでもいい。乾燥しているから日持ちするし、生春巻き以外にもけっこう使える)に包んで揚げればりっぱな一品。食べ切れなかったら冷凍しておけばいいだけである。これで当分サイドディッシュは作らなくて済むぜ!と、にんまりしたのは内緒の話。してやったり。春巻きの「春」は春雨の「春」らしいけど、これに春雨を入れれば「スタンダードな春巻き」になるわけだから、大差ないと言ってしまえばそれまでである。

ところで、春巻きのことを英語で「スプリング・ロール」とか「エッグ・ロール」という。「スプリング・ロール」はどう考えても「春巻き」の直訳であるとしか思えないけれど、そもそもこの言葉のセンスからして救いようがない。けれど、もっと救いようがないのはそのその物体と食べ方だった。
長期のアメリカ滞在でオリエンタルテイストに飢えていた私は、チャイニーズデリバリーの店でそいつを見つけた。
見た目は某ファストフード店の「ホットアップルパイ」に似ているような、似てないような…。だけど、誰がなんと言おうとこれは「春巻き」である。夢にまで見たしょうゆ味。なつかしのオリエンタルフード!勢い込んで齧ったら、中から出てきたのはいり卵とキャベツ、にんじんなどで「スプリング・ロール」の「スプリング=春」を担うべき春雨はどこにも見当たらない。いわゆる「いり卵入り超適当野菜炒め」をガジガジの皮に包んで揚げただけ、なのである。「エッグ・ロール」はそのいり卵から来ているんだろうけど、さらに驚くべきことには、やつらはこれに「オレンジママレード」を付けて食べる。見た目からしてスナック系だけど…アップルパイにも似てなくもないけど…アメリカ人の味覚はどうかしているとしか思えない。
醤油らしき物も、あるといえばある。でもそれはキッコーマンなどのブランド品ではなく、得体の知れない黒くて甘しょっぱい変なタレ。てやんでぇ、しのごの言わずにムラサキ持って来い!と叫びたくなるシロモノだった。

春巻きを見るたびにその時のことを思い出す。そして、さくさくの、すべすべの、ぱりぱりの…まさしく、きめ細やかなオリエンタルの肌にも似た春巻きに出会うことができて、東洋人に生まれてよかった!としみじみ思うのはそんな時なのである。

 


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