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開店☆みなづき食堂

赤と黒 −ムール貝−

前項で作ったトマトソースを、色彩的に美しいムール貝とあわせてみた。ムール貝はガーリックを効かせたトマトソースとの相性もばつぐんで、赤と黒という色合いは、なんともエキゾチックかつ情熱的ではありませんか。
赤と黒…といってまず思い出すのは、ルーレット、トランプのカード、フラメンコにマタドール。どれも神秘的でミステリアス。ましてやムール貝はパエリアなんかに、ひとつふたつ入っているとぐっとゴージャスな感じがする。サフランライスの黄色と相まって、これぞ情熱の国!という感じである。そんなことからも、私はムール貝を黒い宝石だと思っていた。
ところが!このムールというやつは、ブイの周りとか防波堤の周りとか、要するに割とばっちいところに生息しているらしい。ちょっとがっくしである。

がっくしと言えば、昔よく行っていたクラブに、S美さんというものすごく美しい人がいた。凄みのある美人とでもいうのだろうか。彼女はいつも華やかなグループの中心にいて、きわどいドレスに身を包み、下品な英語もその美しさでねじ伏せてしまうような人だった。当時はまだ10代で、クラブ通いの駆け出しだった私は、彼女の姿を見るたびにため息をついていた。それがいつの間にか顔見知りとなり、会えば話をするようになって、ついに彼女と同居するまでになったのである。
その頃、彼女はベース近くの大きなマンションを借りていて、2〜3人のルームメイトと住んでいた。そのうちの一人が引っ越すことになったというのだ。もちろん即答して、私はそのマンションに移り住んだ…と、ここまではよかった。

ところが。一緒に生活を始めた彼女は、テレビを見ながらせんべいを食らう、魔性とはほど遠い普通の女性だったのだ。ナイスガイにエスコートされて、フローズンダイキリなんかをかっこよく飲んでたはずなのに…。「一番好きなのは焼酎のお湯割りなんだよねー」と言われた時はかなりがっくし、である。(現在彼女は、亡き彼氏の忘れ形見であるミックスベイビーの母親として生活している。会えばやはり美しくて、タフな女性である)

話がそれてしまったけれど、ともかくムール貝である。どんなところに生息していようと、美しいもんは美しいんである。
デートの約束には眼をつぶり、「おおっ!」と思ってしまうくらいのにんにくのみじん切りをオリーブオイルで炒めたら、ムールをざざっと投入する。ここへ塩こしょうして、白ワインをざばざまとふりかけ、ひと煮立ちさせてアルコールを飛ばしたら蓋をして蒸し焼きにする。いわゆる「酒蒸し」の状態。時間にして2〜3分くらい。中まで火が通ったかな?まだかな?な感じで構わない。ワインの水分が少なくなるころが目安。
そこにトマトソースを適当に入れる。トマトが煮立って貝にからまるくらいに煮詰まったらできあがり。時間にして15分程度。簡単なもんである。
これにトーストしたパンとサラダでも添えれば立派な夕食になっちゃう。物足りなかったらパスタを茹でて、余ったソースにからめて食べてもおいしい。ムール貝なんていうと洒落こけてるように聞こえるけれど、アサリでもはまぐりでも、イカでもエビでも魚でも、要するにシーフードならなんでもいい。ささっとできてお手軽なイタリアン、どうぞお試しいただきたいと思う。


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