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vol.6 番外編 「フランスの小劇場(ミニ・シアター)」

le 23 août 2004

 以前、スクリーン脇に階段があることなどお話しましたね。今回は映画館に関する話題では無いんですが、映画館の前身である「劇場」のお話です。  

 映画以前の時代は、楽しみといえば「お芝居」ですよね。テレビも無かったわけだし。(そういえば映画初期時代には、映画がお芝居の幕間に上映されてたんだった。「幕間」って古いフランス映画がありますね。)
今回、フランスの演劇を見せたい!と夫が言い出したことがきっかけとなり、古いフランスの劇場を訪れることとなりました。で、そのご報告を‥。  

 場所はオペラ座近くの路地を入り込んだ所。斜め前には古い立派なレストランもあり、劇場の外観もさることながら「う〜んメ劇場界隈モだ〜」と実感。観劇後にはお食事、ですよね。  
 で、中に入るともう入り口からして「お〜、古いぞ〜!」という雰囲気がぷんぷんしてました。入り口右手にはチケットを売る場所、左手には劇場付きのカフェ。観劇前や幕間に紳士がここに集まって葉巻でも吸っていたのかな?って感じ。とにかく装飾が全て古いもんだから、どこを見ても「おぉー!おぉー!」って感じだったんですよ。何がオォー!なのかと言うと、アール・デコ調なのです。これだけでもう、気分はすっかり1930年代ですよ。(笑)  
 正面の入り口には切符切りのお兄さんたちが。チケットを切ってもらった後で「右手の下です」と、劇場入り口を案内されました。そう、一つの劇場の中に、実はいくつか部屋(舞台)があるってことなんです。多分ここは2つくらいあったんだと思います。左に下りたら別の劇場が‥なんて感じかな?


劇場外観

劇場内部(ボックス席ドア)

階段

 で、階段を下りると、なぜか小さい売店が。よくわからないTシャツを売ってました(笑)。あとはお菓子(スニッカーズみたいなヤツ)を少々。意味不明ですね。その売店脇に階段が‥‥どこに続く階段なのかな〜?  
とにかく、ひとつ下の階に下りたとたんにいきなり狭い空間、階段だらけ、小さい扉だらけで、まるで迷路。ヘタに歩き回ると一生出られないかも‥なんて(笑)(だって、トイレに行くのですら迷宮の奥深くでしたから‥)  
で、それからその売店の奥にちょっと行くと、ありましたありました、わたしたちがこれから観劇して感激するべき(うわ〜!ダジャレ!!汗)場所の入り口が。ここはボックス席もあるらしく、たくさん小さな扉があり、そこに番号が書いてありました。その数字の書体もきっちりデコ調。細かい部分もハズしてません。  


ピアノを弾く男性

わたしたちは大きな扉から入りました。通路には座席を案内してくれる女性がいます。これは古いシステムで、劇場のイスの位置ってわかりにくいからこういう女性がいるんですが、でもチップをあげないといけないので‥良し悪しですね。(ちなみに1ユーロ渡しました。)
 わたしたちの席は1階で、本当にド真ん中でした。なかなか良い席でした。ちなみに劇場のサイズはというと、日本で「ミニ・シアター」と言って思い浮かべる感じのサイズ(150席前後?)です。でも造りは劇場なので、1階席の両脇はボックス席、その上に2階席、3階席‥と続いています。(という訳で、実際の座席数は200席以上あったのではないかと。)  
 舞台上では、幕の手前でスポットを浴びた男性が、古いキャバレーでかかってそうな曲をピアノ演奏中でした。ピアノも椅子もすごく古そう。100年前からおんなじのを使ってるのかも。ふと上を見上げてみると、デコ調の大きなレリーフ。またしてもハズしてません。2階席の縁に照明装置や小さいカメラが設置してありました。昔は照明とかどうしてたのかな?  
 舞台脇にはやはり出入り口やら階段やら。本当に迷宮です。ここで迷子にならない役者さんたちってスゴイ。  しばらくピアノ演奏を楽しんでいたら、曲の途中でいきなりメイドさんが登場。演奏者の肩をポンポンと叩き、もうアンタひっこんでいいから、って感じで幕の中にピアノごと消えていく演奏者。そして場内の明かりが落ち‥‥いきなり役者さんが一人、劇場内の通路になだれ込んできて叫ぶシーンから劇は始まりました。  


劇場内照明

 内容はというと、貞淑な妻が見知らぬ男に後をつけられ、アパートまで上がり込まれてしまったところ、その男は実は夫の古い友人で、友人同士の思いがけぬ再会に驚く‥‥それから、登場人物それぞれに妻、愛人がいて、すったもんだで入り乱れるというお話。フランスの劇って大体いつもこんなパターンらしく、妻が入ってくるから浮気相手をバスルームに押し込み、妻をなだめている最中に浮気相手がチラチラと顔を出しては困らせる、という典型的な喜劇。(他人の妻を誘惑したくなるっていうのは、隣の芝生は青く見える、ってのとおんなじでしょうか?)  
 劇中、役者さんたちは非常に「普通に」演じていて、ちょっと驚きました。日本で「演劇」というと、喉の奥から出す大声を張り上げてるってイメージがあったんですが、フランスだともともとフランス語は喉の奥から声が出るから、つまり、日常と比べて違和感が少ないんですね。ていうか普通の会話ですら大声出してるフランス人って多いし。。。  


劇のポスター

 貞淑な人妻を何人もの男があのテこのテで誘う。でもそれらの男たちにも実は愛人や妻がいて‥。妻が夫の浮気を目撃。で、貞淑だった妻が「それならワタシも!」と浮気することを決意するものの、今度は男のほうがひるんでしまう。そして最後には、「やっぱりアナタが一番よ!」と夫婦が丸く収まるっていうお話。古典的ですね。いや、もともとの台本自体が古いものらしいので、そのせいですね。
「Ciel ! Mon Feydeau !」というタイトルだったんですけど、本当は Ciel ! Mon mari ! (あぁ、夫だわ!)となるべきところを Feydeau にしていて、その Feydeau ってのは劇作家の名前らしいです。  

 古い劇場ってだんだん消えていく運命にありますよね、特に日本だとすぐ建替えられちゃうし。こういう迷路みたいで使いづらそうな劇場がちゃんと残っていて、しかも活躍していることを嬉しく思いました。その反面、それがどんどん映画館に変えられてしまったんだなぁーと思うと、ビミョウな気分。


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